【自閉症支援事例】「水遊びが終われない」利用者への対応|声かけや絵カードが通じない理由
【自閉症支援事例】「水遊びが終われない」利用者への対応|声かけや絵カードが通じない理由
自閉症や知的障害のある利用者様の中には、水流の輝きや音、触覚といった「感覚刺激」に強く惹かれ、一度その行動を始めると何十分もやめられないというケースがあります。
特に手洗いの場面などで水遊びが始まってしまうと、次のスケジュールが押してしまい、職員も焦って「もう終わり!」「やめなさい」と強い口調で制止してしまいがちです。
しかし、何度注意しても改善しない場合、それは「伝え方」そのものに問題があるのかもしれません。
今回は、重度の自閉症の方の「水遊びが終われない」という事例をもとに、一般的な絵カード支援の落とし穴と、「具体物(オブジェクト)」を使った効果的な切り替えテクニックについて解説します。
この記事は、スペシャルラーニングのSL50から抜粋して作成しています。
講師は、自閉症eサービス全国ネット 代表の中山清司先生です。

【事例】「水遊びをやめてくれない」重度自閉症(ASD 自閉スペクトラム)の利用者について
今回ご紹介するのは、発語のほとんどない重度自閉症の青年です。地域の生活介護事業所に通われていますが、手洗いの場面で問題が起きていました。
【困りごと】
洗面台で手を洗う際、流れる水に魅了されてしまい(水遊び)、5分、10分、ひどい時は数十分もその場から離れられなくなってしまいます。
現場の支援員は、以下のような対応をしていました。
- 口頭で「もう終わりです」と伝える。
- 「水遊び×(バツ)」の絵カードや写真を見せる。
- 体を軽く触れて促す(身体介入)。
しかし、これらの対応では本人の行動は切り替わらず、現場は疲弊していました。
自閉症に効果のある「絵カード」が通用しなかったのか?
一般的に自閉症支援では「視覚支援(絵カード)」が有効とされています。では、なぜこのケースでは絵カードを見せても効果がなかったのでしょうか。ここでも氷山モデル(行動の背景を探る視点)での分析が役立ちます。
1. 自閉症が水遊びが好きなのは、水の刺激が強すぎるから(感覚過敏・没頭)
本人にとって、水の感覚刺激は非常に魅力的です。その没頭状態において、支援員が出す小さなカードは、意識を向けるに値しない弱い刺激だった可能性があります。
2. 「×(バツ)」の意味がまだ理解できていない
ここが重要なポイントですが、重度の障害がある方の中には、「×マーク(禁止)」や「写真カード」という抽象的な記号の意味が理解できない方がいます。
支援者は「伝えているつもり」でも、本人には「ただの紙切れ」にしか見えていなかったのです。
3. 「どう終わればいいか」が分からない
実はこの利用者様、作業場面では「ワークシステム(手順書)」に従ってスムーズに行動を切り替えられていました。つまり、「切り替える能力」はあるのです。
水場では「終わり方」や「次に何をすべきか」が具体的に示されていなかったため、混乱して遊び続けていた可能性が高いと推測されました。

【解決策】「ペーパータオル」を渡すことで水遊びをやめてくれた。
ーなぜ水遊びをやめることができたのか?
そこで、支援チームは抽象的なカードの使用をやめ、「ペーパータオル(具体物)」を手渡すというアプローチに変更しました。
【具体的な支援手順】
水遊びをしている本人の手に、直接ペーパータオルを渡します。
【結果】
彼は渡されたペーパータオルで手を拭き、そのまま自然にゴミ箱へ捨て、次の活動場所へと移動しました。あれほど終わらなかった水遊びが、スムーズに完結したのです。
なぜうまくいったのか?
これは「オブジェクト・キュー(具体物による合図)」と呼ばれる手法の一つです。
- 具体的である: 抽象的な絵ではなく「実物」なので、意味が直感的に伝わる。
- 行動のスクリプト(台本)がある: 彼は過去の経験から「ペーパータオルを持つ」→「手を拭く」→「ゴミ箱に捨てる」という一連の動作を習得していました。
- 肯定的な指示: 「やめなさい(禁止)」ではなく、「手を拭きましょう(次の行動)」という肯定的な指示として機能した。
禁止するのではなく「次の行動」へ導く(肯定的行動支援)
この事例から学べるのは、「肯定的行動支援(ポジティブ行動支援)」の重要性です。
不適切な行動(水遊び)に対して、私たちはつい「ダメ」「やめなさい」と「静止」させようとします。しかし、理由もわからず楽しみを奪われた本人は、フラストレーションを溜め、パニックや他害といった別の問題行動を引き起こすリスクがあります。
一方、今回のペーパータオルのように、「次はこれをします」という具体的な行動へ誘導してあげれば、本人は否定されたと感じることなく、スムーズに次のステップへ進めます。
- 散歩に行ってほしい時:口で言うより「帽子」や「リュック」を渡す。
- 食事の時間:スプーンやお箸を見せる。
重度の方ほど、言葉や絵カードよりも「実物」を使ったコミュニケーションが有効な場合が多いのです。
まとめ:現場の対応は「禁止」ばかりになっていませんか?
「何度言ってもやめない」と悩む職員に対し、「もっと強く言って」「根気よく付き合って」と精神論で指導していませんか?
それは、支援の方法(道具)が本人に合っていないだけかもしれません。
今回の事例のように、「絵カードから具体物に変える」というたった一つの工夫で、長年の問題があっさり解決することは多々あります。
重要なのは、そうした引き出し(知識・ノウハウ)を現場職員が持っているかどうかです。
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