【障害者虐待防止法】なぜ制定されたのか?凄惨な歴史と「書いてないからOK」という現場の誤解

【障害者虐待防止法】なぜ制定されたのか?凄惨な歴史と「書いてないからOK」という現場の誤解

平成24年(2012年)10月に施行された「障害者虐待防止法」。
今では障害福祉サービス事業所において、虐待防止委員会や身体拘束適正化検討委員会の設置、そして研修の実施が義務付けられています。

しかし、毎年の研修が「法律の条文を読み上げるだけ」「『虐待はダメ』と言うだけ」のマンネリ化したものになっていませんか?

この法律は、ある日突然できたものではありません。その背景には、かつて実際に起きた凄惨な事件と、尊厳を踏みにじられた多くの当事者の犠牲があります。

今回は、障害者虐待防止法が制定されるきっかけとなった「歴史」と、現場職員が陥りやすい「定義の誤解」について解説します。

この記事は、スペシャルラーニングのSL39から抜粋して作成しています。

講師は、元 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課地域生活支援推進室 虐待防止専門官/障害福祉専門官であり、現在、社会福祉法人みんなでいきる 理事/障害福祉事業部長の片桐公彦先生です。

法律制定の裏にあった「凄惨な事件」の歴史

障害者虐待防止法ができる前、児童虐待防止法や高齢者虐待防止法、DV防止法などが先に整備されていましたが、障害者に対する虐待防止の法整備は遅れていました。

その間にも、企業や施設では、現代では信じられないような虐待事件が起きていました。

記憶すべき3つの事件

今回の動画講義では、法制定以前の代表的な事件として以下の3つが挙げられています。

  1. サン・グループ事件(滋賀県)
    • ある企業で起きた事件。障害のある従業員に対し、激しい暴行を加え、死亡事案にまで発展しました。
  2. 水戸アカス事件(茨城県)
    • こちらも企業(段ボール加工会社)での事案。知的障害のある従業員に対し、給与を支払わず酷使し、日常的な暴行を行っていました。
  3. 白河育成園・カリタスの家事件
    • 障害者入所施設で起きた事案。特に「カリタスの家」では、強度行動障害のある利用者に対し、「木刀で殴る」「唐辛子を目に擦り込む」「排泄物を食べさせる」といった、拷問のような虐待が行われ、それを職員が面白がって笑っていたという実態がありました。

法制定の決定打となった視察

特に「カリタスの家」の事件は社会に大きな衝撃を与えました。当時の厚生労働大臣が現地を視察し、その惨状を目の当たりにしたことが、障害者虐待防止法の制定に向けた機運を一気に高める決定打となったと言われています。

私たちが今、当たり前のように遵守しているこの法律は、こうした悲劇を二度と繰り返さないために作られた「血の通ったルール」なのです。

障害者虐待防止法の「定義」を正しく理解する

改めて、法律の基本定義をおさらいしましょう。

「障害者」とは誰か?

法律上の対象者は、障害者手帳を持っている人に限りません。「障害者基本法」に規定される障害者すべてが対象となります。

虐待をする「3つの主体」

法律では、誰が虐待したかによって3つに分類しています。

  1. 養護者による虐待(家族など)
  2. 障害者福祉施設従事者等による虐待(施設の職員など ※皆様はここに該当します)
  3. 使用者による虐待(雇い主など)

虐待の「5類型」

  1. 身体的虐待(殴る、蹴る、拘束する)
  2. 放棄・放置(ネグレクト、食事を与えない、不潔にする)
  3. 心理的虐待(暴言、無視、子供扱いする)
  4. 性的虐待(わいせつ行為、強要)
  5. 経済的虐待(年金や賃金の搾取)

【重要】「マニュアルに書いてないから虐待じゃない」は通じない

この法律の運用にあたり、自治体向けの手引き(マニュアル)が作成されましたが、作成に関わった専門家は、ある「現場の壁」に直面しました。

それは、「手引きの例示に書いていない行為だから、虐待とは判断しなかった」という自治体や現場の反応があったことです。

「書いてあることが全て」ではない

これを受けて、手引きには「思いつく限りのあらゆる虐待行為」が細かく追記されました。しかし、どれだけ細かく書いても、全てのケースを網羅することは不可能です。

ここで重要なのは、「ここに書いていないから虐待ではない(やってもいい)」という解釈は絶対に間違いであるということです。

手引きにあるのはあくまで「例示」です。それに類似する行為や、利用者の尊厳を傷つける行為は、たとえマニュアルに載っていなくても「虐待」として判断されます。

「マニュアルに書いてないから大丈夫」という思考停止こそが、もっとも危険な虐待の芽なのです。

まとめ:歴史と法の精神を学ぶ「意味のある研修」を

障害者虐待防止法は、単なる禁止事項のリストではありません。「カリタスの家」のような悲劇を二度と生まないという、福祉に関わる全員の誓いが込められています。

職員研修において、条文の読み合わせだけで終わらせていませんか?
「なぜこの法律ができたのか」「マニュアルの行間にある『人権』をどう守るか」を伝えきれていますか?

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