【重症心身障害の歴史】「行き場のない子どもたち」を救うために。病院であり生活の場である「重心施設」の誕生と現在

【重症心身障害の歴史】「行き場のない子どもたち」を救うために。病院であり生活の場である「重心施設」の誕生と現在
日本の障害福祉において、「重症心身障害児(者)」への支援は、非常に特殊かつ専門的な発展を遂げてきました。
「病院なの? 施設なの?」
「18歳を過ぎたらどうなるの?」
今回は、この分野の第一人者であり、長年現場を牽引してこられた講師の解説をもとに、重心施設の定義、特殊性、そして誕生の歴史について紐解きます。
この記事は、スペシャルラーニングのSL106から抜粋して作成しています。
講師は、公益社団法人日本重症心身障害福祉協会 理事長であり、社会福祉法人三篠会(堺市立重症心身障害者(児)支援センター・ベルデさかい) の名誉センター長の児玉 和夫(こだま かずお)先生です。

そもそも「重症心身障害」とは何か?
まず、定義を明確にしておきましょう。重症心身障害(以下、重心)とは、以下の2つを併せ持っている状態を指します。
- 重度の肢体不自由(手足が不自由で、自力での移動が困難)
- 重度の知的障害
この「ダブルの重度」であることが要件です。
たとえ重い病気があっても、歩ける場合や、逆に体は動かなくても知的な遅れがない場合は、この定義(重心施設入所対象)には含まれません。
彼らは、自力で生活することが極めて困難であり、人生のすべて、医療のすべてにおいて手厚い支援を必要とする方々なのです。
世界でも珍しい?「福祉施設」かつ「病院」という形態
日本の重心施設は、世界的に見ても極めて特殊な存在です。
最大の特徴は、「福祉施設でありながら、医療機関(病院)でもある」という二面性を持っている点です。
- 福祉施設として:生活の場であり、保育士や指導員などの福祉職員が配置されている。
- 医療機関として:医療法に基づく「病院」であり、医師、看護師、薬剤師、リハビリ職などが配置されている。
- 生涯の支援:幼児期に入所し、そのまま成人、高齢期になっても一貫して支援を受けられる。
医療と福祉が完全に融合し、看取りまでを行うこのシステムは、日本のセーフティネットの最後の砦とも言えます。
2012年の転換点。「児」と「者」の法律上の分離
長らく、重心施設は「重症心身障害児施設」という名前で、児童福祉法に基づいて運営されてきました。本来は「児童(18歳未満)」のための施設ですが、行き場がないため、特例として大人になってもそのまま入所し続けることが認められていました(過齢児問題)。
しかし、入所者の高齢化が進む中、「いつまでも児童施設の扱いでいいのか」という議論が起き、2012年(平成24年)に制度が大きく変わりました。
- 18歳未満:児童福祉法に基づく「医療型障害児入所施設」
- 18歳以上:障害者総合支援法に基づく「療養介護」
建物やベッドは同じでも、18歳を境に適用される法律とサービス名が変わるようになったのです。これにより、かつての「重症心身障害児施設」という名称は法律上消滅しましたが、実態としての支援機能は今も変わりません。

歴史的背景:既存の施設に入れなかった子どもたち
なぜ、このような特殊な施設が必要だったのでしょうか。時計の針を戦後に戻してみましょう。
昭和23年(1948年)に児童福祉法が施行され、「知的障害児施設」や「肢体不自由児施設」が作られました。しかし、当時の施設には厳しい入所条件がありました。
- 「移動ができること」
- 「学習能力があること」
- 「身の回りのことができること」
この条件に当てはまらない、重度の肢体不自由と知的障害を併せ持つ子どもたち(重心児)は、どの施設にも入れませんでした。
さらに当時は、障害が重いと「就学猶予(免除)」とされ、学校教育からも排除されていました。病院に入院しても、治療法がないため長期入院は断られます。
「この子たちには、行くところがない」
家庭の中で社会から隔絶され、医療的ケアを必要とする我が子を必死に守る親たち。
「なんとかこの子たちを救ってほしい」という切実な悲鳴が、昭和30年代半ばからの施設設立運動へとつながり、現在の重心支援の礎となったのです。
まとめ:歴史を知ることは、支援の「重み」を知ること
重心施設は、制度の狭間で苦しんでいた子どもたちと家族のために、先人たちが作り上げた「命の砦」です。
現在では、入所だけでなく、在宅で暮らす重心児者のための通所支援や短期入所など、地域支援の機能も期待されています。
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