【重心施設の誕生】「18歳の壁」と「病院か福祉か」の議論を越えて。日本独自のシステムはどう作られたのか?

【重心施設の誕生】「18歳の壁」と「病院か福祉か」の議論を越えて。日本独自のシステムはどう作られたのか?
親たちの切実な運動が実り、昭和42年(1967年)、ついに児童福祉法が改正されました。
ここで初めて、国の法律として「重症心身障害児施設」が位置づけられたのです。
しかし、この新しい施設を作るにあたり、制度上どうしても解決しなければならない「2つの大きな問題」が立ちはだかりました。
今回は、現在の重心施設のあり方を決定づけた、当時の議論と解決策について解説します。
この記事は、スペシャルラーニングのSL106から抜粋して作成しています。
講師は、公益社団法人日本重症心身障害福祉協会 理事長であり、社会福祉法人三篠会(堺市立重症心身障害者(児)支援センター・ベルデさかい) の名誉センター長の児玉 和夫(こだま かずお)先生です。

昭和42年の法改正と「第1の壁:18歳問題」
「重症心身障害児施設」は、その名の通り児童福祉法に基づく施設です。
法律上、「児童」とは18歳未満を指します。つまり原則通りなら、「18歳になったら施設を出ていかなければならない」ことになります。
しかし、重症心身障害の方々は、成人したからといって障害が軽くなるわけではありません。
「施設を出ても、受け入れてくれる場所はどこにもない」
「自宅で介護を続けるには、親も高齢化している」
解決策:「児者一貫(じしゃいっかん)」の確立
この矛盾を解決するために取られたのが、「18歳を過ぎても入所を継続して良い」という特例措置です。
これにより、重心施設は「児童施設」という看板を掲げながらも、実質的には大人も受け入れ、一生涯を通じて生活を支援する場(児者一貫)としての機能を担うことになりました。

第2の壁:「病院なのか、福祉施設なのか」
次に議論となったのが、施設の「性格」です。
日本の重心施設のルーツとされる2つの施設には、それぞれ異なる考え方がありました。
- 島田療育園(東京):医療的ケアを必要とする児童が多いため、「病院機能」が不可欠であるという考え。
- 琵琶湖学園(滋賀):あくまで人間としての生活の場であり、医療の下に管理されるべきではないとする「福祉施設」としての考え。
解決策:「両方の機能」を併せ持つ
激論の末、出された結論は「両方やる」でした。
- 医療法に基づく「病院」として、医師・看護師を配置し医療を提供する。
- 児童福祉法に基づく「福祉施設」として、生活と療育を提供する。
こうして、「病院でありながら家でもある」という、世界でも類を見ない日本独自の重心施設のスタイルが確立されたのです。
圧倒的な不足を補った「国立療養所」の活用
制度はできましたが、箱(施設)が足りません。
当時、全国には約1万7000人の重症心身障害児がいると推定されていましたが、受け皿はほぼゼロからのスタートでした。
そこで国が目をつけたのが、「国立療養所(現在の国立病院機構)」です。
当時、結核が減ったことで空き病棟が目立っていた国立療養所を、重心児の受け入れ先として活用することにしたのです。
現在の体制へ
この施策により、重心支援は「社会福祉法人が運営する民間施設」と「国立病院機構」の2本柱で整備が進みました。
令和5年現在、民間施設には約1万4000人、国立病院機構には約7000人の方が生活しており、多くの命と暮らしを支えています。
まとめ:制度の壁を壊して作られた「命の砦」
現在の重心施設が持っている「大人が児童施設にいる不思議」や「病院なのに生活の場という特殊性」。
これらは全て、「行き場のない人たちをなんとかして救いたい」という先人たちが、既存の制度の枠組みを乗り越えて作り上げた結果なのです。
この歴史的背景を知ることは、重心支援に携わる職員としての誇りと、深い理解につながります。
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