【支援の落とし穴】「順番ね」が伝わらずケンカに発展…自閉症支援で避けるべき“抽象的な指示”とは?

【支援の落とし穴】「順番ね」が伝わらずケンカに発展…自閉症支援で避けるべき“抽象的な指示”とは?

「順番を守ってね」
「ちゃんとして」
「ちょっと待って」

私たちが日常で何気なく使っているこれらの言葉。
実は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもや利用者にとっては、「外国語」と同じくらい意味が分からない言葉かもしれません。

今回は、前回に引き続き、支援員・江端さんの失敗談(保育士時代のエピソード)をご紹介します。
「言葉は通じているはずなのに、なぜかうまくいかない」という悩みの裏にある、「概念の理解」「アセスメント(評価)」の重要性について解説します。

この記事は、スペシャルラーニングのSL64から抜粋して作成しています。

講師は、自閉症eサービス全国ネット 代表の中山清司先生です。

失敗談:「順番にとって」と言ったのに…

江端さんがまだ保育士だった頃の話です。
ある日、自閉症の特性がある子どもが「おもちゃ貸して」と言ってきました。

江端さんは「順番にとってええやん(順番にとりなさい)」と声をかけました。
しかしその直後、その子は猛ダッシュでおもちゃを取りに行き、友達とケンカになってしまったのです。

なぜ伝わらなかったのか?

江端さんは当時、「なんで伝わっていないのか分からなかった」と振り返ります。
しかし、専門家(中山氏・真舟氏)の分析によると、原因は明確です。

  1. 「順番」という概念が分からなかった
    「順番」という言葉は、目に見えない抽象的な概念です。「列に並ぶこと?」「交互にやること?」「自分が何番目かということ?」など、状況によって意味が変わります。
  2. 都合の良い部分だけ聞こえてしまった
    「順番にとって」と言われた時、前半の「順番」の意味が分からず、後半の「とって(いいよ)」という許可の部分だけをキャッチしてしまった可能性があります。

結果、子どもは「とっていいんだ!」と思って行動し、止められて「さっき良いって言ったじゃん!」とパニック(ケンカ)になってしまったのです。

「ちゃんとして」「ていねいに」はNGワード?

この事例から学べるのは、「抽象的な言葉は伝わりにくい」という教訓です。
自閉症の方は、曖昧な表現を理解するのが苦手です。以下のような言葉は、誤解を生む原因になります。

  • 「順番に」 → どう動けばいいか不明。
  • 「ちゃんとして」 → 何が「ちゃんと」なのか基準が不明。
  • 「ちょっと待って」 → 1分なのか1時間なのか不明。
  • 「ていねいに」 → 具体的な動作が不明。

これらは、支援者側が「分かっているだろう」と思い込んで使ってしまいがちですが、彼らにとっては「指示がない」のと同じか、あるいは「誤った解釈」を引き起こすリスクがあります。

解決策:行動を具体的に指示する

では、どう伝えればよかったのでしょうか?
抽象的な言葉を避け、「具体的な行動」に変換して伝えることが正解です。

「順番」を具体化する

  • 「ここで待っててね」(場所と行動の指定)
  • 「〇〇君が取ったら、次に取りに行くよ」(タイミングの指定)
  • 「君は3番目だよ」(順序の明確化)

言葉だけでなく、指で数字を示したり、並ぶ位置にテープを貼ったりするなど、「見て分かる」工夫があれば、さらにトラブルは減らせたでしょう。

急がば回れ。「アセスメント」の時間を取る

江端さんはこの失敗を経て、新しい利用者と関わる際には、「評価(アセスメント)の時間」をしっかり取るようになったと言います。

  • 「この人はどのくらいの言葉を理解しているか?」
  • 「どういう伝え方なら受け止めてくれるか?」

いきなり支援を始めるのではなく、まずは「相手の理解度を知るための準備期間」を設けるのです。
中山氏もこれを「大正解」と評価しています。

現場は忙しく、つい目の前の対応に追われがちですが、最初に時間をかけて相手の特性を把握(アセスメント)しておくことが、結果としてその後のトラブルを減らし、支援をスムーズにする「最短ルート」になります。

まとめ:関わりながら「探る」プロになろう

支援の現場では、行動しながら考える「マルチタスク」が求められます。

  • 目の前の関わりをする(Do)
  • 同時に、「伝わっているかな?」「誤解していないかな?」と頭の中で分析する(Check)

「言うことを聞かない」と感じた時、それは反抗しているのではなく、単に「言葉の意味(概念)」が分かっていないだけかもしれません。
「順番」や「ちゃんと」という言葉に頼らず、具体的で分かりやすい「通訳」ができる支援者を目指しましょう。

障害福祉の研修動画サービス「スペシャルラーニング」では、

  • 自閉症の方に伝わりにくい「抽象語」の言い換えリスト
  • 個別の理解度を把握するためのアセスメントシートの活用法
  • 新人職員が陥りやすいコミュニケーションの失敗事例集

など、現場での「伝わらない」を解消し、お互いのストレスを減らすための具体的なテクニックを動画で配信しています。
言葉のすれ違いをなくすために。ぜひご活用ください。

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