【自閉症支援の失敗談】「トイレは済んだから大丈夫」は命取り?目に入った物を“反射的”に取ってしまう衝動への対策

「机の上にあるお茶を、パッと取って飲んでしまった」
「他の人の給食なのに、見えた瞬間手が出てしまった」

自閉スペクトラム症のある方の中には、「目に入った瞬間に手が伸びる(衝動性)」という特性を持つ方がいらっしゃいます。
これは「意地汚い」からでも「ルールを守れない」からでもなく、視覚情報が行動に直結してしまう脳の特性によるものです。

今回は、支援歴20年のベテラン・西本さん(bonワークス枚方)でもやってしまった失敗談から、「環境調整の鉄則」「思い込みの怖さ」について解説します。

この記事は、スペシャルラーニングのSL73から抜粋して作成しています。

講師は、自閉症eサービス全国ネット 代表の中山清司先生です。

失敗談:ほんの5分の油断が招いたトラブル

西本さんが担当していたある利用者様は、好きなお茶や食べ物が視界に入ると、反射的に手が伸びてしまう特性がありました。
普段、スタッフたちはその特性を理解し、見えない場所に隠したり、ご本人の動線(通り道)に物を置かないように徹底していました。

しかし、ある日の昼食前。西本さんはこう判断してしまいました。

「彼はさっきトイレに行ったばかりだから、もうここ(食堂)には来ないだろう」

そう思い込み、食事の5分前、まだ他の利用者が着席していないテーブルに、先にお茶を置いてしまったのです。

「まさか」の再訪、そして…

運悪く、そのテーブルはトイレに行く動線上にありました。
「もう来ない」という西本さんの予想に反して、その利用者様は再びトイレ方面へやってきました。

そして、目の前に置かれたお茶を発見。
結果、目に入った瞬間に手が伸び、他の人の分を手に取ってしまいました。

ベテランでも陥る「思い込み」の罠

この失敗の原因は、単純な「不注意」ではありません。
支援経験が長いからこそ陥りやすい、2つの心理的な罠がありました。

1. 「さっき〇〇したから大丈夫」という予測

「さっきトイレに行った=もう行かないはず」
これはあくまで支援者側の論理であり、予測に過ぎません。利用者様にとっては「行きたい時に行く」のが自然です。
不確定な予測(思い込み)を根拠に、安全策(物を隠すこと)を怠ってしまったのが第一の要因です。

2. 「良かれと思って」の先回り

「早く準備しておけば、みんながすぐ食べられる」という「良かれと思って」の行動が、結果としてトラブルを招きました。
自閉症支援において、タイミングの早すぎる提示は、混乱や衝動性を刺激するリスクになります。

対策:視覚情報のコントロールと連携

では、どうすれば防げたのでしょうか。

鉄則:食べる直前まで「見せない」

「目に入ると手が伸びる」特性がある場合、「視界に入れない」ことが最強かつ唯一の予防策です。

ご本人が着席するその瞬間まで配膳しない、あるいはパーテーションで隠すなど、物理的に視覚情報を遮断する必要があります。

必須:スタッフ間の「声かけ」

もし西本さんが、その場にいた担当スタッフに一言声をかけていたらどうだったでしょうか。

  • 西本さん: 「今から配膳しますね(置くよ)」
  • 担当スタッフ: 「あ、彼がまだ近くにいるから待って!」

このように、「今から環境を変える(物を置く)」という合図があれば、担当スタッフがブロックしたり、配膳を待ってもらったりすることができました。
「言わなくても分かるだろう」ではなく、行動前の確認が事故を防ぎます。

まとめ:支援のプロとは「環境を作るプロ」

どんなに言葉で「取っちゃダメ」と言い聞かせても、目の前に大好物があれば、衝動を抑えるのは困難です。
彼らを叱る前に、「取れる場所に置いた環境」を見直さなければなりません。

  • 「来ないだろう」という思い込みを捨てる。
  • 刺激となる物は、ギリギリまで隠す。
  • 環境を変える時は、チームで声を掛け合う。

20年のベテランでも失敗するほど、この「環境調整」は奥が深く、そして重要です。
「つい置いてしまった」をなくすことが、利用者様を守ることに繋がります。

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