【事例:高次脳機能障害】麻痺が治って復職したのに…40代男性を襲った「ミス多発」と「借金」の正体

【事例:高次脳機能障害】麻痺が治って復職したのに…40代男性を襲った「ミス多発」と「借金」の正体

高次脳機能障害の難しさは、外見からは障害があるように見えないことにあります。

「手足の麻痺も治ったし、元気そうだから大丈夫だろう」
そう思って社会復帰(復職)をした後に、本人も周囲も予想していなかったトラブルが続出し、生活が破綻してしまうケースが少なくありません。

今回は、実際の症例(40代男性・脳梗塞)をもとに、復職後に現れた具体的なトラブルと、その原因となる「脳の症状」について分析・解説します。

この記事は、スペシャルラーニングのSL56から抜粋して作成しています。

講師は、名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院 第1脳神経内科部長 なごや高次脳機能障害支援センター センター長の稲垣 亜紀(いながき あき)先生です。

【事例】40代男性・脳梗塞(右前頭葉・頭頂葉の病変)

【患者プロフィール】

  • 40代男性
  • 病名:脳梗塞後遺症(右前頭葉から頭頂葉にかけて病変あり)

【経過】
軽度の左麻痺で救急搬送されましたが、治療により麻痺は間もなく改善。2週間の入院を経て自宅退院となり、約2ヶ月の療養後に職場へ復帰しました。

身体的な障害はほとんど残っておらず、周囲からは「完全に治った」と思われていました。しかし、本当の闘いは復職してから始まったのです。

復職後に顕在化した「仕事」でのトラブル

職場に戻った彼を待っていたのは、以前のように仕事がこなせない自分への焦りと混乱でした。具体的には、以下のような問題が発生しました。

1. 書類をなくす・入力ミスをする

  • 症状:大事な書類をどこにしまったか分からなくなる。パソコン入力でミスを連発する(特に左側のキー打ち間違いが多い)。
  • 原因「記憶障害」および「注意障害」です。
    • 左側のミスが多いのは、右脳の損傷による「左半側空間無視(左側に注意が向かない)」の影響も考えられます。

2. FAXの誤送信・集中できない

  • 症状:FAXの宛先を間違える。仕事中ぼんやりして集中できず、同じ失敗を繰り返す。
  • 原因「注意障害」です。
    • 注意を持続させる、適切に配分するといった機能が低下しているため、単純なミスを繰り返してしまいます。

周囲からは「気が緩んでいる」「やる気がない」と叱責されがちですが、本人にとっては脳の機能不全による不可抗力なのです。

家庭崩壊の危機?「生活面」での異変

異変は仕事だけではありません。自宅での生活態度も、病前とは別人のように変わってしまいました。

1. 毎日同じ服、同じ食事

  • 症状:毎日同じスーツを着て出勤し、毎日同じものを食べ続ける。
  • 原因「意欲低下」または「固執(こだわり)」です。
    • 服を選ぶ、メニューを決めるといった能動的な意欲がわかない、あるいは一度決めたパターンから抜け出せない状態です。

2. 毎晩の遊び歩き・散財・借金

  • 症状:毎晩のように飲み歩き、あったはずの貯金を使い果たし、借金まで作ってしまった。
  • 原因「脱抑制(だつよくせい)」です。
    • これは「社会的行動障害」の典型的な症状の一つです。脳の前頭葉(理性のブレーキ)が損傷したことで、欲求を我慢できなくなり、後先考えずに浪費してしまいます。

決して「自堕落になった」わけではなく、ブレーキが壊れた車のような状態なのです。

まとめ:その「性格の変化」は、脳からのSOSかもしれない

この事例の男性のように、高次脳機能障害の方は、ご本人自身も「なぜこんなに失敗するのか」「なぜ止められないのか」が分からず、苦しんでいます。

支援者に求められるのは、表面的な行動(ミス、浪費、無気力)だけを見て「だらしない人だ」と評価することではありません。

「脳のこの部分が傷ついているから、こういう症状が出ているんだ」
と、医学的な根拠に基づいて行動を分析し、環境調整を行うことです。

障害福祉の研修動画サービス「スペシャルラーニング」では、

  • 実際の症例に基づいた具体的なケーススタディ
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