【チーム支援の失敗事例】積み上げた支援が水の泡に。自閉スペクトラム症支援で起きる「善意の破壊」

「一人の職員が必死に積み上げた信頼関係や生活リズムが、別の職員の何気ない一言で崩れ去る」

自閉スペクトラム症(ASD)の支援現場で、このような悲劇は後を絶ちません。

今回は、こだわりが強く繊細な対応を要する利用者の事例を通して、 「個人のスキルに頼る組織(グループ)」 の限界と、 「支援を共有する組織(チーム)」 への転換について解説します。

この記事は、スペシャルラーニングのSL93から抜粋して作成しています。
講師は、厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会 介護報酬改定検証・研究委員会委員であり、日本社会事業大学専門職大学院教授の井上 由起子(いのうえ ゆきこ)先生と元厚生労働省 障害福祉課・虐待防止専門官であり、日本社会事業大学 社会事業研究所 客員教授の曽根 直樹(そね なおき)先生です。

1. 緻密な「構造化」vs 善意の「アドリブ」

ある事業所に、自閉スペクトラム症でこだわりが強い利用者さんがいました。

  • 熱心な職員Aさんの対応(専門的)
    • 緻密な計算:音声言語が刺激になるため、お風呂から出る時は「言葉をかけずにカードを見せる」。
    • スケジュールの徹底:見通しを持たせるため、絵カードで手順を示し、その通りに進める。
    • 結果:本人は落ち着いて過ごせる。
  • 別の職員Bさんの対応(自己流・善意)
    • 生活実感に基づく対応:「カードだけなんて冷たい」と思い、「もう出てください」と声をかける。
    • 気まぐれな変更:「こっちの方が楽しそう」と、良かれと思ってスケジュールを変えてしまう。
    • 結果: 本人は大パニックを起こし、Aさんが積み上げた安定が崩壊する。

ここで重要なのは、Bさんに悪気はないということです。しかし、 「共有されていない善意」 が、もっとも恐ろしい結果を招いてしまいます。

2. なぜうまくいかない?「グループ」の状態だから

この事業所は、前回の講義で学んだ定義で言うと 「グループ(個人の集合体)」 の状態にあります。

  • スキルが「ランダム」
    • 専門知識を持って支援を組み立てる人もいれば、自分の感覚や経験だけで動く人もいる。バラバラの状態です。
  • 説明責任が「個人」
    • トラブルが起きた時、「Aさんのやり方が特殊だ」「Bさんが勝手なことをした」と、個人の責任になってしまいます。

3. 「チーム」になることは「人を育てる」こと

この状況を打開し、 「チーム」 になるためにはどうすればよいでしょうか。

  • スキルを「補完」し合う
    • Aさんの持つ「専門知識(なぜカードを使うのか)」を、Bさんに共有し、理解してもらう。
    • 逆に、Bさんの持つ「暖かみ」を、構造化の中にどう組み込めるか話し合う。
  • シナジー(相乗効果)を生む
    • 「誰が入っても同じ支援ができる」状態を作る。
    • これにより、利用者は24時間365日安心して過ごせるようになり、支援の質は「1+1=3以上」になります。

講師の井上氏は、 「チームになるということは、人を育てることにつながる」 と指摘します。

「自分だけができればいい」ではなく、「自分の技術を周りに伝え、チーム全体のレベルを底上げする」こと。これこそが、自閉スペクトラム症支援におけるチームマネジメントの本質です。

まとめ:その支援、みんなで説明できますか?

特定の職員しかできない支援は、利用者にとってリスクでしかありません。

「なぜその支援が必要なのか」を職員全員が説明でき、実践できる状態(共同的な説明責任)を目指しましょう。

積み上げた日々を水の泡にしないために、個人の「職人芸」をチームの「標準装備」に変えていく作業が必要です。

障害福祉の研修動画サービス「スペシャルラーニング」 では、

  • 自閉スペクトラム症支援の「構造化」をチームで共有するマニュアル作成法
  • 「感覚・経験頼り」の職員に理論を伝えるOJT(現場教育)のコツ
  • 支援のバラつきをなくす「手順書(SOP)」の作り方

など、属人化しやすい支援をチームの力に変えるための具体的なノウハウを動画で配信しています。

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