【障害福祉のチームマネジメント事例】「素人」の視点がプロを動かす。利用者中心の支援で乗り越える混乱期

「専門知識(テクニック)がすべてではない」

福祉現場において、時として「専門外」の視点が膠着した支援を大きく動かすことがあります。

今回は、強度行動障害のある方への支援において、営業職出身の新人職員が起こした「建設的な対立(混乱期)」と、それによってチームが利用者中心の支援へと進化(統一期へ)した事例を紹介します。

この記事は、スペシャルラーニングのSL93から抜粋して作成しています。
講師は、厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会 介護報酬改定検証・研究委員会委員であり、日本社会事業大学専門職大学院教授の井上 由起子(いのうえ ゆきこ)先生と元厚生労働省 障害福祉課・虐待防止専門官であり、日本社会事業大学 社会事業研究所 客員教授の曽根 直樹(そね なおき)先生です。

1. 「構造化」一辺倒の現場に現れた異分子

ある事業所では、強度行動障害(他害・自傷)のある利用者に対して、専門的なアプローチを徹底していました。

  • 従来の方針:集団行動は無理。パニックを防ぐため、徹底した「構造化(環境調整)」と「個別対応」を行う。

そこに、福祉経験のない営業職出身の新人職員が入職します。

彼は専門知識がない分、素朴な疑問を持ちました。

「構造化も大事かもしれないけど、もっと本人とコミュニケーションを取るべきでは?」

「相手(利用者・家族)のことをもっと知るべきでは?」

2. 営業スキルが生んだ「関係性」の突破口

新人は、構造化のテクニックよりも、営業職で培った「相手を知るアプローチ」に時間を割きました。

  • 家族へのヒアリング:小さい頃の様子や好きなことを丁寧に聞き出し、家族との信頼関係を構築。
  • 在宅環境の改善:家族との関わりを支援し、本人が家でも安心して過ごせるようにサポート。
  • 本人との対話:言葉での意思疎通が難しくても、粘り強く向き合い、「この人は分かってくれる」という信頼を獲得。

その結果、本人の情緒が安定し、指示が入るようになり、「集団活動もできるのではないか?」という手応えを得るまでになりました。

3. 専門職との対立、そして和解

新人はカンファレンスで「グループワークに参加できるのではないか」と提案します。

しかし、専門職たちは反発します。「そんなの無理に決まっている」「パニックを起こしたらどうするんだ」。ここでチームは「混乱期(対立)」を迎えます。

しかし、新人はここで諦めず、「丁寧に経過を説明」しました。

「ご家族からこういう話を聞き、こういう関わりをしたら、こう変化した」という事実を、営業職ならではのプレゼン力で分かりやすく伝えたのです。

専門職たちも、その事実(エビデンス)と熱意に触れ、ハッとさせられました。

「我々はテクニックに固執しすぎていたかもしれない」

「信頼関係という当たり前の土台を忘れていたかもしれない」

4. 「技法」と「心」の融合へ

この対立を経て、チームは新たなステージ(統一期)へと進みました。

  • 方針の転換:構造化一辺倒ではなく、「本人との関係性構築」や「自尊感情の回復」も重視する。
  • チームの成長:専門職の「技術」と、新人の「対話力」が融合し、より柔軟で利用者中心の支援ができるようになった。

まとめ:対立の先にある「統一期」を信じる

この事例の勝因は、新人が専門職を否定せず、事実に基づいて対話をしたこと、そして専門職側も新しい視点を受け入れる柔軟さを持っていたことです。

混乱期(対立)は、チームが壊れる危機であると同時に、「より良い支援」を見つけるためのチャンスでもあります。

「この対立の先には、必ず良いチーム(統一期)が待っている」

そう信じて、恐れずに意見をぶつけ合い、利用者を中心とした「納得解」を探すことが、チームマネジメントの真髄です。

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